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明日死ぬとしたら


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 目を閉じれば、今日が昨日になり、明日が来る。その明日が、最後だと知ったとき、人は何を考えるのだろう。

 財布の中身を確認する。こんなに現金を持っていても意味がない。クレジットカードもいらない。引き落とし日はもう来ないのだから。冷蔵庫を開ける。半分残った牛乳、昨日買ったパン、賞味期限を気にする必要もない。口にする前に腐るのは、食べ物ではなく、自分のほうなのだ。

 スマートフォンの通知が鳴る。どうでもいいニュース、誰かの食事の写真、未読のメッセージ。「元気?」と聞かれても、もう答える時間はない。返信しようか迷って、結局、電源を落とす。音のない世界は、思ったより静かで、思ったより不安だ。

 部屋の隅に、昔読んだ本が積まれている。開きかけのページ、途中で折れた栞、読もうと思って読まなかった言葉たち。今さらページをめくっても、もう物語の結末にはたどり着けない。

 窓を開ける。夜風が流れ込む。いつもの風のはずなのに、違う国から吹いてきたように感じる。いつもの夜のはずなのに、見知らぬ場所にいるような気がする。

 時計の針が進む。明日まで、あと何時間だろう。最後の瞬間を、誰かと過ごすべきか、一人で迎えるべきか。考えているうちに、時間は過ぎる。迷う時間すら、もう贅沢なのかもしれない。

 ふと、明日の朝のことを思う。目覚ましは鳴るのだろうか。セットした時間に、きちんと起こしてくれるのだろうか。それとも、もう必要ないと判断して、静かに沈黙するのだろうか。

 眠るべきか、起きているべきか。目を閉じたら、もう開かないかもしれない。それでも、まぶたが重い。意識が遠のく。明日が来るのかどうか、その答えを知るのは、今の自分ではない。

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