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超短編小説 「地図にない町」


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 庄内町に着いたのは、日が沈んだ後だった。駅前の時計は止まり、街灯はまばらに点滅している。風が吹くたびに、看板の錆びた鎖がかすかに鳴った。人気はない。町全体が、ずっと前からこの状態であるかのように静まり返っている。

 男はポケットから古びた地図を取り出した。確かに「庄内町」と記されている。しかし、歩き始めるとすぐに違和感を覚えた。地図にあるはずの建物がない。道はねじれ、交差点の形が変わり、橋は川の上ではなく畑の上にかかっている。

 「おかしいな」

 地図を凝視するうちに、足元の感覚が不確かになった。ふと顔を上げると、町の輪郭が揺れていた。建物はわずかに歪み、道路の白線はかすかに脈打っている。まるで町そのものが息をしているかのようだ。

 男は背後に気配を感じた。振り返ると、路地の暗がりから誰かがこちらを覗いている。人影はすぐに消えた。

 「ここは……本当に庄内町なのか?」

 言葉が霧のように宙に溶ける。答えはない。遠くの田んぼには、鏡のような水面に月が映っていた。しかし、そこに映る景色は逆さではなかった。月の下に広がる町は、男が今立っている場所とは違う形をしていた。

 男はもう一度地図を見た。さっきまで紙だったはずのそれは、指先で触れるとざらついた感触を残し、土に変わっていった。指の間から黒い粒がこぼれ落ちる。

 駅へ戻ろうとしたが、道は消えていた。いや、町全体がゆっくりと形を変えている。さっきまで歩いてきたはずの道は、すでに別の何かに作り替えられていた。

 男はもう一度月を見た。水面に映る町の中に、小さな影があった。それは自分自身だった。

 風が吹くたびに、町は静かに変わり続ける。彼がここにいる限り、町は形を変え、出口は永遠に閉ざされたままだった。

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