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世界が満ちていた理由

夜の終わりと朝のはじまりが、同時に部屋にあった。

目を開けると、カーテンのすき間から淡い光が差し込んでいた。まだ完全に朝ではない。けれど、夜はもう役目を終えたように、静かに退いている。

窓の外では、星が消えきれずに空に残り、まるで最後の呼吸をしているかのように、かすかに瞬いていた。その光を見送るように、部屋の中には、あたたかい朝の光がゆっくりと広がっていく。

時計の針は進んでいたけれど、時間はどこか立ち止まっているように感じられた。

何かをしなければならない気は、もうしなかった。誰かになろうとする必要もなかった。

ただ、ここにいる。息をして、光の中に座っている。それだけで、世界は満ちていた。

胸の奥に、静かな感覚があった。それは新しく手に入れたものではなく、ずっと前から知っていたものだった。

言葉になる前の安心。説明も理由もいらない、深い肯定。

「これでいい」と思う前に、「ずっと大丈夫だった」と思い出す感覚。

愛は、どこかに探しに行くものじゃなかった。誰かに与えて、返ってくるのを待つものでもなかった。努力して勝ち取るものでもなかった。

気づいたとき、もう抱かれていた。

世界は、外側にあるものではなく、自分を取り囲むものでもなかった。

世界と自分のあいだに、境目はなく、同じひとつの呼吸の中にあった。

今日も、特別なことは起きないだろう。予定通りの一日が、淡々と流れていくだけかもしれない。

それでも、何も起きていないこの瞬間が、すでに十分だった。

静かな朝の光の中で、すべては、もう大丈夫だった。

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