top of page

亡くなった人は、本当に消えるのか。


夜の部屋は静かだった。

時計の秒針の音だけが、やけに大きく聞こえる。


大切な人が亡くなってから、この静けさが少し怖くなった。

あんなに賑やかだった家なのに。

今は、思い出だけが残っている。


ふと、懐かしい香りがした。

思わず顔を上げる。


この香りは知っている。

忘れるはずがない。

あの人が、いつも使っていた香りだ。


まさか。


そう思いながらも、胸が少し温かくなる。

それは、あの日から何度か起きている不思議な出来事だった。


ある日は、時計を見た瞬間に目を疑った。

並んでいた数字は、あの人の誕生日だった。


偶然かもしれない。

でも、その数字を見ると胸の奥が少しだけ軽くなる。


そしてある夜、夢の中で再会した。

何年ぶりだろう。


そこには、いつもと同じ笑顔があった。


元気にしてる。


たったそれだけの言葉だった。

でも、その声を聞いた瞬間、涙が止まらなかった。


夢から覚めたあとも、その温もりは消えなかった。


目を閉じると、あの日々が浮かぶ。

一緒に笑ったこと。

何気ない会話。

くだらないことで笑い合った時間。


あの時は、そんな日常が永遠に続くと思っていた。


ある日、部屋の電気が突然チカチカと点滅した。

壊れたのかと思った。

でも、次の日には何事もなかったように普通に戻っていた。


その時、ふと感じた。


もしかして。


そばにいるよ。


そんな気がした。

理由なんてない。

でも、確かに感じた。


それからというもの、時々不思議なことが起きる。


懐かしい香り。

夢の中での再会。

偶然とは思えない数字。


そして何より、理由のない安心感。


ある日、落ち込んで家に帰った夜。

胸が押しつぶされそうなほど苦しくて、誰にも言えない思いを抱えていた。


その時だった。


突然、胸の奥がじんわり温かくなった。

まるで誰かが背中をそっと包んでくれるような感覚だった。


大丈夫だよ。


そんな言葉が聞こえた気がした。


気のせいかもしれない。

思い込みかもしれない。


でも、その瞬間、確かに涙が溢れた。


人は亡くなると、本当に消えてしまうのだろうか。

それとも形を変えてそばにいるのだろうか。


答えはきっと誰にも分からない。


でも一つだけ確かなことがある。


大切な人を思い出したその瞬間、その人はまたあなたの中で生きる。


声を思い出す。

笑顔を思い出す。

温もりを思い出す。


その度に、その人はあなたの心の中で確かに存在している。


だからきっと。


大切な人は、完全には消えない。


思い出すたびに。

感謝するたびに。

その人はまた、あなたの中で生きる。


もしかすると今も、あなたのすぐ隣で静かに微笑んでいるのかもしれない。


だからもし、ふと懐かしい香りがしたら。

夢の中で再会したら。

理由のない安心感に包まれたら。


その時は、こう言ってみてほしい。


ありがとう。


きっとその言葉は、光になって届くから。

コメント


bottom of page