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超短編小説 「やる気」


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 朝、目を覚ますと、やる気が落ちていた。

 枕元にはなく、ベッドの下にも転がっていない。昨夜は確かにあったはずだが、見当たらない。仕方なく部屋中を探す。机の引き出し、クローゼットの奥、冷蔵庫の隅——どこにもない。

 窓の外を見ると、街の片隅で誰かが俺のやる気を拾い上げ、ポケットにしまうのが見えた。

 「それは俺のだ!」

 叫んだが、相手は気づかないふりをして歩き去る。悔しさを噛みしめながら、仕方なく服を着替える。

 靴を履いた瞬間、かすかに何かが戻ってきた気がした。玄関を開け、一歩踏み出す。やる気なんて、なくしたままでいいのかもしれない。動き出せば、勝手にあとからついてくる。

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